僕は妹に恋してる


五十嵐 綾斗(いがらし あやと):22歳 昔から妹と仲がいい

五十嵐 敦子(いがらし あつこ):43歳 幸菜が産まれる少し前に夫を交通事故で亡くす

五十嵐 幸菜(いがらし ゆきな):17歳 高校生

 

 

綾斗:世間一般に言う普通はおかしい。普通って言うレールに乗っからなければ異常だとか、おかしいとか……そんなレッテルを貼られる常識に嫌気がさす

綾斗:電車を乗れば歩く人がいて、車を乗る人だっている。それなのに…周りと少し違うからとなぜ、おかしな人だと見られなければならないのだろう……

綾斗:俺達は……なにがおかしいのだろうか

 

 :「間を開ける」

 :

 

 :「2階の部屋に向け1階から呼びかける」

敦子:幸菜ー!ご飯出来たわよー

 

 :「敦子の横から現れる」

綾斗:お、今日は唐揚げかぁ。

 

敦子:コラッ!!

 

綾斗:痛っ!

 

敦子:つまみ食いなんかしようとしないでよ!はしたない!

 

綾斗:ちょっとぐらいいいじゃんかぁ……

 

敦子:ご飯は自分でよそってちょうだい

 

綾斗:はいはーい。

 

敦子:…幸菜いつになっても来ないわねぇ

 

綾斗:俺呼んでくるよ

 

敦子:お願い

 

 :「綾斗が2階に歩き出す」

 :

綾斗:おーい幸菜ー

 

 :「反応が無い」

 :

綾斗:……幸菜ー?部屋入るぞー

 

 :「ドアを開けるとベッドに横になっている幸菜」

綾斗:おーい、寝てるのかー?(静かに)

 

幸菜:…………んん……(寝息)

 

綾斗:……ふっふっふ…よっと!

 

 :「幸菜の鼻を綾斗がつまむ」

 

幸菜:……ふにゃ……!?なになになに…!?

 

綾斗:……ぷぷっ……あはは

 

幸菜:……え……?あー……またお兄ちゃんイタズラしたなぁ……!

 

綾斗:期待通りの面白い反応だった。さすが我が妹よ

 

幸菜:毎度毎度、寝てる時に私で遊ぶなー!

 

綾斗:なかなか起きないお前が悪い。それよりご飯出来てるぞ!早く下に降りてこい

 

幸菜:おっけー。今すぐ行くー

 

 :「間を開ける」

 :

幸菜:えぇ…唐揚げぇ?太っちゃうよ

 

敦子:文句があるなら食わなきゃいいでしょ

 

綾斗:いらないなら俺が食ってやるけど?

 

幸菜:ダメでーすっ!食わないとは言ってないモーン!

 

 :「間を開ける」

 :

敦子:幸菜。ドレッシング冷蔵庫から出して

 

幸菜:えぇ…お母さんのが冷蔵庫に近いじゃん

 

敦子:ご飯をいつも作ってくれる母を労(ねぎら)う気持ちは無いのかしら?

 

幸菜:いつもありがとうございますー。お疲れのお母様、どーぞー

 

敦子:親思いの子供を持って母は嬉しいわ

 

幸菜:わざとらしぃ

 

綾斗:いつまでもやってると俺が全部食べちゃうぞ!

 

幸菜:嫌だ!私の唐揚げもちゃんと残して!

 

綾斗:早い者勝ちだ!あぐっ!

 

幸菜:コラァァア!私の唐揚げ返せぇえ!

 

敦子:まだあるから騒がないの!

 

 :「間を開ける」

 :

綾斗:んじゃ、風呂先に入るよ

 

幸菜:私もー

 

敦子:……ちょっと

 

幸菜:ん?

 

敦子:アンタ達、仲良いのは良いけど、今の歳で兄妹二人でお風呂に入るなんて……普通有り得ないわよ?

 

幸菜:別にいいじゃん。その方が時間短縮になるし、冷めないからお湯足さなくて済むし

 

敦子:そうゆう問題じゃないでしょ

 

幸菜:じゃあ、どうゆう問題?

 

敦子:……アンタ達は……兄妹なのよ?…分かってるの?

 

幸菜:分かってるよ。私もう行くからー

 

敦子:ちょっと……!!………………はぁ…。

 

 :「お風呂内にて」

 :「間を開ける」

 :

幸菜:…………はぁ

 

綾斗:どうした?

 

幸菜:……またお母さんが…。

 

綾斗:あぁ…。俺達の心配してるのか

 

幸菜:……うん

 

綾斗:……普通ってなんだろうな。

 

幸菜:……わっかんない…。兄妹だからダメとか、嫌にならないのかって固定概念がホントいや……

 

綾斗:……でもさ、周りはやっぱりそうゆう人多いし、実際俺達の仲は異様に良いのは分かる

 

 :「間を開ける」

 :

綾斗:〔周りと少し違う。そう感じたのは妹が中学生に入った時だった〕

 

 :「過去」

 :

敦子:……幸菜

 

幸菜:ん?なにー?

 

敦子:……綾斗と外であまりベタベタし過ぎるのは止めなさい

 

幸菜:…え?どうゆう意味?

 

敦子:……隣の伊藤さんから聞いた…。アンタ達、また手を繋いで歩いてたんだってね? 

 

幸菜:それがどうかしたの?

 

敦子:どうかしたのじゃないわよ!!アンタ達の年齢的にも、兄妹で手を繋いで歩いてるなんておかしいでしょ!?

 

幸菜:おかしいって何……?仲良くしてるのがなんでおかしいの?

 

敦子:仲の良さが異様なのよ!同じ歳の子でアンタ達みたいにしてる子居る!?

 

幸菜:居ないよ。だからってそれを悪く言われる理由にならないよ

 

敦子:……っ…!分からないの!?アンタ達はおかしい人だって周りが思ってるのよ!私達は家族なのよ!?

 

幸菜:家族だからってなんなの……

 

敦子:……クッ……!!(鋭い目付きで睨む)

 

幸菜:…はぁ…。……分かったよ。気をつける……

 

敦子:…………。

 

 :「間を開ける」

 :

綾斗:…………そうか。母さんがそんな事を

 

幸菜:まるで私達が悪い事してるみたいな言い方…

 

綾斗:……控えよう

 

幸菜:……え?

 

綾斗:確かに外でベタベタし過ぎるのは良くない

 

幸菜:……でも!!

 

綾斗:俺達が良くても、母さんや俺達を知ってる人達から見たら…きっと良くない様に見えるかもしれない……

 

幸菜:…………私達って……やっぱり、少し……おかしいのかな……?

 

綾斗:…………。

 

 :

綾斗:〔俺達は、互いに互いの気持ちに気づいていた。けど、周りの目や母の発言を気にして、わざわざ気持ちを言うことも無く……誰が見てるかも分からない外では、兄妹以上に仲良く見えない様にしていた〕

綾斗:〔だけど…時間が経つにつれて、互いに身体や心は成長し、気持ちも抑えきれなくなっていった〕

 

 :「今に戻る」

 :「ベッドで横になる綾斗の後ろから抱きつく幸菜」

 :

綾斗:何してるんだよ

 

幸菜:……眠れないから……

 

綾斗:…嘘つきだな。本当はそんなんじゃないだろ?

 

幸菜:……ダメ…?

 

綾斗:こんな所で母さんが居合わせたら、またなんか言われるぞ

 

幸菜:……いいよ。ずっと我慢してるの……嫌だし

 

綾斗:……そんな事言うなよ……。俺だって……同じなんだから……。

 

 :「身体に回した幸菜の手に手をそえる」

 :

幸菜:…………お兄ちゃん…。なんで私達……好きになっちゃダメなの……?

 

綾斗:……。

 

 :「間を開ける」

 :

綾斗:仕事行ってくる

 

敦子:ちゃんとお弁当持ったの?

 

綾斗:持ってるよ。忘れるわけないだろー。行ってきまーす

 

敦子:……昨日忘れてったクセに何言ってんだか…

 

 :「下の階の階段から声をかける」

 :

敦子:幸菜も早く起きなさーい!幸菜ー!

 

幸菜:ん……んん……お兄……ちゃん……

 

敦子:幸菜ー!!

 

幸菜:……んん…………ふぁあ……

 

 :「起き上がりベッドをさする」

 :

幸菜:……お兄ちゃんの温もり、まだある…。結局一緒に寝てくれたんだ…。

 

 :「幸菜が下に降りてくる」

 :

幸菜:ふぁあ……(大きなあくび)

 

敦子:いつまでのんびりしてるの。早く準備してよ!もういい歳なんだから

 

幸菜:…朝弱いんだってばぁ……

 

敦子:言い訳はいいから早く!

 

幸菜:はいはい……

 

 :「幸菜が玄関を開ける」

 :

幸菜:行ってきまーす

 

 :「間を開ける」

 :

幸菜:……はぁ…。

幸菜:〔私は高校生。お兄ちゃんは社会人。仕事が忙しいお兄ちゃんとは、会うタイミングは夜遅くが基本〕

幸菜:〔お兄ちゃんは真面目でいい大学に出て、今はIT業者に勤める。言わば出来る人間である〕

幸菜:〔私がお兄ちゃんに相応しいとは思えないし…お兄ちゃんもなぜ私なんかを…なんて思う時もある……。だけど、やっぱり私は……〕

 

 :「間を開ける」

 :

敦子:……何を言ってるの?アンタ……。

 

綾斗:俺は本気だよ

 

敦子:馬鹿な事言わないで…

 

綾斗:母さん! 

 

 :「敦子が机を思いっきり叩く」

 

敦子:いい加減にしなさいよ!!自分で何を言ってるか分かってるの!?

 

幸菜:……ただ……いま

 

敦子:……!!……幸菜

 

綾斗:…………。

 

幸菜:……へ?……なに?……なんの騒ぎ…?

 

敦子:…………。

 

綾斗:…この家をそろそろ出て行きたいって言っただけだよ

 

幸菜:……え…?お兄ちゃんが……?

 

綾斗:そう。俺がこの家を出たいって急に言い出したもんだから、母さんが驚いたんだ。そうだろ?母さん

 

敦子:…………え、えぇ…。そうよ…

 

幸菜:待ってよ……なんで急に……

 

綾斗:……もう、この家に嫌気がさしただけだ

 

 :「立ち上がって自分の部屋へ去る」

 

幸菜:……お母さん…。なにしたの?

 

敦子:…なにもしてないわよ……

 

幸菜:なら、なんでお兄ちゃんが出てくなんて言い出すの…

 

敦子:そんなの勝手に決めた事でしょ…知らないわよ……

 

幸菜:嘘つき!!

 

敦子:……!!

 

幸菜:お兄ちゃんがそうゆう人じゃないって知ってるでしょ!!なにか隠してる!そんな事分かるよ!!

幸菜:私はもう子供じゃないし、今までずっと一緒に居てきたんだから、お母さんの事もお兄ちゃんの事も分かるよ!!分からないと思ってるの!?

 

敦子:……なら……なんで……分からないの……

 

幸菜:……え…?

 

敦子:……なんでいつまでも分かってくれないのよ…。兄妹で好きなんて間違ってる!!

 

幸菜:……!!

 

敦子:アンタ達は間違ってるのよ!!どこでそうなっちゃったの…?私の育て方?それとも……

 

幸菜:お母さんのバカ!!!(さえぎるように)

 

敦子:幸菜!!

 

 :「幸菜が逃げるように部屋から出て行く」

 :

敦子:…………っ…!!

 

 :「敦子が頭を抱え椅子に座る」

 :

敦子:……間違ってるのはあの子達…?それとも……私なの……?

 

 :「部屋の奥にある和室へ目をやる」

 :

敦子:……アナタ……。私は……どうするのが正解なの……?……教えて……

 

 :「間を開ける」

 :「綾斗の部屋を開ける」

 :

敦子:……綾斗

 

綾斗:…普通ノックぐらいしなよ

 

敦子:……幸菜がどこにも居ないんだけど、どこに行ったか知ってる?

 

綾斗:……なんで知ってると思うの。ずっと部屋に居たのにさ

 

敦子:…………アンタなら知ってると思ったのよ。仲、良いじゃない

 

綾斗:なに?嫌味を言いにココに来たの?

 

敦子:違う……!幸菜が見当たらないから、知らないなら探して欲しいのよ

 

綾斗:……こんな時だけ都合良くそうゆう事言うのな。いつも一緒に居ることを嫌ってくるくせに

 

敦子:……っ…!

 

 :「ドアで二人すれ違う」

 :

綾斗:さっきも言った通り、考えは変わらないから

 

 :「綾斗が下に降りてく」

敦子:……綾斗……。

 

 :「どしゃ降りの雨の中」

 :

幸菜:……

 

綾斗:……やっぱりここに居た

 

幸菜:……お兄ちゃん…。

 

綾斗:雨が降ればここに来ると思ってた

 

幸菜:……当たり前だよ。ここが一番誰にも見られなくて、降ってる間だけは、二人きりで居られる場所なんだから……

 

綾斗:昔よりだいぶホコリまみれになってるけどな

 

幸菜:今はこんな場所、なかなか来ないからね……

 

綾斗:……そうだな

 

幸菜:…………。

 

 :「しばらくの沈黙」

 :

幸菜:……お兄ちゃん

 

綾斗:……なんだ

 

幸菜:家を出るって…本気なの…

 

綾斗:……あぁ、本気だ

 

幸菜:……どこに行くつもり?

 

綾斗:…あてはない

 

幸菜:……なにそれ。ノープラン?

 

綾斗:そうゆう事になる

 

幸菜:……意味…分からない……!家を出て行くって事がどうゆう事か分かってるの!?

 

綾斗:……分かってる

 

幸菜:分かってないよ!!だって……!お兄ちゃんが出て行ったら……!!私と……

 

綾斗:…………幸菜、その事について…話しがある

 

幸菜:……え……?

 

綾斗:一旦家に帰ろう

 

幸菜:……なに!?どうゆう事……!?

 

綾斗:いいから

 

 :「二人が家に帰る」

 :「間を開ける」

 :

綾斗:ただいま

 

幸菜:…………。

 

敦子:…………幸菜

 

綾斗:……母さん、さっき言った通り…幸菜を連れて家を出る

 

幸菜:……え!?

 

敦子:…………。

 

幸菜:……待って…私……も?

 

敦子:…アンタがいくら社会人になったって言っても、幸菜はまだ高校生だし、無謀(むぼう)すぎるわよ?

 

綾斗:ここでずっと自分を押し殺して、周りに合わせるよりかは断然良い

 

敦子:…………。

 

 :「敦子が綾斗をビンタする」

 :

綾斗:……っ…!!

 

幸菜:お母さん…!?

 

敦子:……二度と…帰ってこないで……

 

綾斗:………行くぞ、幸菜

 

幸菜:……お兄ちゃん……!!

 

 :「幸菜は引っ張られるがまま外に連れてかれる」

 :

幸菜:……待ってよ…!ねぇ……!

 

綾斗:…………。

 

幸菜:待ってってば……!!

 

 :「立ち止まる」

綾斗:…………。

 

幸菜:……これから、どうするの?

 

綾斗:あてはない。出る準備はしてあったけど…それ以外の事は何も

 

幸菜:……これで……お兄ちゃんは良かったの…?

 

 :「どしゃ降りの雨の中、幸菜を真っ直ぐに見つめる」

 

綾斗:……俺はずっと我慢してた。他の誰かなんて興味無い。誰がなんて言おうと気持ちなんか変わらなかった……!

綾斗:正解とか、間違えなんて無い!俺は!俺は……!!

 

 :「幸菜が綾斗に口付けをし、しばらくの沈黙」

 :

綾斗:……!!

 

幸菜:…ん……。……私の…初めてだよ…。

 

綾斗:……お前…。

 

幸菜:私だって同じだった。ずっとずっと……お兄ちゃんしか見ていなかった。でも、好きって言葉すら許されないって思ってたの……

 

 :「綾斗の手を握る」

 :

幸菜:でも……もう、良いんだよね…。もう…我慢しなくても良いんだよね

 

綾斗:あぁ……好きだ。幸菜

 

 :「目をつぶり、おでこ合わせ」

 

幸菜:私もだよ。私も……好き……お兄ちゃん

 

 :「次の日朝」

 :「間を開ける」

 :

幸菜:…おはよ…。

 

敦子:……何しにきたの?二度と戻って来ないでって言ったはずだけど

 

幸菜:私は出て行く準備…なにもしてなかったから…。

 

敦子:……!

敦子:…………そう。

 

幸菜:……先に言っておくよ。ごめん、お母さん。……私…高校辞めるかもしれない

 

敦子:……!!

 

幸菜:お金も出してもらったし、時間も費やしてくれた。お父さんが居なくなって、今まで女手一つで育ててくれた…。感謝してる

幸菜:…けど、出て行くってなったら…高校をこのまま行けるかも分からないから…さ……

 

敦子:……親不孝な子になったわね…。…勝手にしなさい…

 

幸菜:……ごめんね、お母さん。……今まで…………ありがとう

 

 :「ゆっくりとドアが閉まる」

 :「敦子が我慢してた感情が一気に放たれたかのように床に崩れる」

敦子:…………っ……!!あなた達って子は……!ホントにっ……!!…………。

 

 :「幸菜が歩きながら目を拭きやる」

幸菜:……お母さん……ごめん……。……ごめんなさい……。

 

 :「夕焼けの浜辺で二人が居る」

 :「間を開ける」

 :

綾斗:……これから、どうするか…

 

 :「幸菜は朝潮で裸足になって水で遊ぶ」

幸菜:お兄ちゃんは仕事どうするの

 

綾斗:……辞めたら今後の俺達の生活が困難になる。でも、俺達を知ってるこの場所に居るのは嫌だろ?

 

幸菜:……そうだね…。家も飛び出してきちゃったわけだし

 

綾斗:……だから、仕事を辞めて違う仕事をする気だ。……何するかまでは決めてないけど…。

 

幸菜:……私達…本当になにも考えず飛び出してきちゃったんだね……(苦笑)

 

綾斗:……好きって気持ちだけで突っ走って……きっと俺達、馬鹿だよ

 

幸菜:ふふっ……そうだね。だけど……それでも私は良いよ

 

 :「綾斗に近づき手を差し伸べる」

幸菜:お兄ちゃんと一緒なら、どこへだってついて行く

 

綾斗:………そうだな

 

 :「手を掴み立ち上がり、恋人繋ぎに変える」

綾斗:今後の未来なんか、どうにでもなる。きっと……俺達二人なら……。