雨降る君に傘をさす


瀬奈 薫(せな かおる)

伊藤 敦也(いとう あつや)

 

0:《強く雨が降る街中で一人、傘もささずにたたずむ女性がいる》

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瀬奈:…っ…。

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0:《後ろから傘を差し出す男性が現れる》

敦也:風邪引くぞ

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0:《敦也に背を向けたまま少しコチラに顔を向けすぐに顔を落とす》

瀬奈:……八ッ…!!(気づいて振り向く)

瀬奈:……………なんだ………アンタか…(落胆する)

 

敦也:悪かったな…来たのが俺なんかで

 

瀬奈:ホントよ…。期待して損した…。

 

敦也:…まだ、ここで待ってるつもりか?

 

瀬奈:………別にいいでしょ…。私の勝手なんだし…

 

敦也:……アイツは来ない

 

瀬奈:…………。

 

敦也:本当は…お前は分かってるんだろ

 

瀬奈:……何のことだか…

 

敦也:この間だって約束すっぽかされてたろ

 

瀬奈:あれは……仕方なかったの…。急な仕事が入っちゃったっていうし…そのあと凄い謝ってたし…。

 

敦也:……それ、まさか信じてるのか?

 

瀬奈:……どうゆう意味よ…?

 

敦也:本当に急な仕事で来れなくなったなんて思ってるのかって言ってんだよ

 

瀬奈:だって…そう…言ってたし…。

 

敦也:アイツから言われたらお前は何でも信じるのか?

 

瀬奈:…っ!

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0:《怒った形相で振り返る》

瀬奈:何なの?さっきから…!私を茶化しに来たわけ?そうゆうの別にいらないから!!求めてない!!

 

敦也:そんなんじゃない。お前を目覚めさせに来たんだ

 

瀬奈:………は?

 

敦也:いつまでもあんな奴にすがるな。アイツはお前の事なんて本当は……

 

瀬奈:アンタに何が分かるわけ!!?(※セリフ被せて続けて言う)

 

敦也:………。

 

瀬奈:アンタに西野さんの何が分かるの!?さっきから知ったように語ってきて…いつもいつも私の邪魔をする…!そんなに楽しい?そんなに私に構ってほしいわけ!?おかげさまでいい迷惑!!※

 

敦也:…俺はただ…

 

瀬奈:だいたい目覚めさせるって何?助けにでも来たって言いたいの?どこかの物語の王子様にでもなった気分でいるの?そんなの違う所でやってよ!!お願いだから私を巻き込まないで!!※

 

敦也:………。

 

瀬奈:……………ほっといてよ…。

 

敦也:……無理だ

 

瀬奈:………ほっといて…!

 

敦也:…ほっとかない

 

瀬奈:ほっといてよ!!

 

敦也:ほっとけるわけないだろ!!

 

瀬奈:………!!

 

敦也:……お前はバカな女だよ…。なんで騙されてるって分かってて…いつまでもこんな所居るんだよ…。

 

瀬奈:……騙されてなんか……いない…。

 

敦也:……この間の約束ほったらかしにされた時…。アイツ、他の女と歩いてた

 

瀬奈:……はっ……。嘘よ…。

 

敦也:お前といつも出掛けてたショッピングモールで、楽しそうにその女と手を繋いで歩いてた

 

瀬奈:…………ウソ……

 

敦也:急な仕事なんて、最初からなかった

 

瀬奈:……そんなの嘘に決まってるっ……!!だって…!!だって………!

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0:《瀬奈がその場に崩れ落ちる》

瀬奈:………だって…好きだって……。愛してるって……。君だけだよって…

 

敦也:そんなの…体(てい)のいい謳(うた)い文句だ

 

瀬奈:…アンタが嘘ついてる可能性だってあるじゃない…

 

敦也:なんのために?

 

瀬奈:私のことが嫌いだから

 

敦也:……何言ってるんだよ

 

瀬奈:だってそうじゃん…!いつも私の邪魔してお節介してきて…アンタに振り回されるのよ…!

 

敦也:だから嫌いだって?

 

瀬奈:……嫌いでしょ

 

敦也:…だったら、なんでわざわざお前を探してこうやって傘さすんだよ

 

瀬奈:そんなの……知らない…。

 

敦也:………俺の事、嫌いか?

 

瀬奈:…………嫌い…。何考えてるか分からないし…ずっと付きまとってくるし…

 

敦也:………はぁ……

 

瀬奈:もういいでしょ…。アンタを嫌いな私になんかいちいち構わなくていい。どっか行って

 

敦也:だから、行かないっての…。

 

瀬奈:…お願いだから…もう構わないで…!

 

敦也:無理だって言ってるだろ…。

 

瀬奈:もうほっといてよ!!

 

敦也:泣いてるお前をほっとけるわけねぇだろ!!

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0:《傘を投げ捨て抱き寄せる》

瀬奈:…………!!

 

敦也:…こんなに苦しんでるお前を…ほっとけるかよ…!

 

瀬奈:……なん…で……

 

敦也:……お前に余計なお世話するのも、嫌われたってどこにも行かないのも全部…!全部全部全部お前が好きだからだよ!!

 

瀬奈:……なんでよ……だって私…ずっと酷い事……

 

敦也:知るかよ…。どうしよもなく…お前の事が好きになっちまったんだから…!

 

瀬奈:…そんなの…信じられないよ…。

 

敦也:…信じなくていい。今は、それでもいい…!だけどもう…アイツの事で苦しむな…!これ以上、自分を傷つけるな!!

 

瀬奈:……分からない……。

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0:《大粒の涙が流れる》

瀬奈:私……もう……分からないよ…

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0:《瀬奈が敦也の服の背中を強く掴み締める》

瀬奈:……大好きだったんだ…!今でもずっと…!こんな風にされても…好き…!なのに…なんでよ…!!なんで私だけ……!!

 

敦也:………そんな事…分かってる…。だから…帰ろう。

 

瀬奈:……………うん

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0:《瀬奈の家に二人が上がり、タオルで拭く》

敦也:……少し、落ち着いたか?

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0:《拭く手が止まる》

瀬奈:………全然…。

 

敦也:……そうか…。

 

瀬奈:何がなんだかさっぱり…。頭がゴチャゴチャしてよく分かんない…。

 

敦也:………。

 

瀬奈:…今の状況で敦也も上手い事言って私を騙してたら…私っていいカモだよね…。

 

敦也:何言ってるんだよ…

 

瀬奈:弱ってる私にあんな言葉かけられたらさ…私、逃げらんないじゃん…?

 

敦也:狙って弱さに付け込む気は無かった。お前の事は好きだ。でも、そんなやり方は嫌だ…!

 

瀬奈:……どうだろねぇ…?私、今、疑心暗鬼だから

 

敦也:いきなり信じろとは言わない…。ただ…俺の気持ちに全く気付かなかったって言うのだけがどうにも気に入らない

 

瀬奈:そんなの分かるわけないじゃん…!そうゆう素振りなかったし…

 

敦也:ウソだろ…!?俺が今まですっとお節介してきたり何なりしてきたのにか…!?

 

瀬奈:…え?…あぁ………そうゆうことか……。

 

敦也:……お前って…ホントっ……!………はぁ……。

 

瀬奈:…なんか…ごめん…。

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0:《少し間を開け》

 :

敦也:…アイツの事、どうするんだよ?

 

瀬奈:アイツ?

 

敦也:……西野のこと…!…たくっ…名前すら呼びたくないのに…!

 

瀬奈:……どう…しようね…。まだ、分からない…。

 

敦也:もう、関わるのはよせ

 

瀬奈:…本当はそうした方がいいんだろうけどね…。私…バカだから…。

 

敦也:……あぁ。どうしようもないバカだよ…。

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0:《敦也が部屋を出ようとする》

 :

瀬奈:ちょっと!!

 

敦也:ん?

 

瀬奈:お風呂入っていかないの?そのままじゃ風邪引くよ?

 

敦也:……ホントお前って……。

 

瀬奈:……何よ…

 

敦也:自分が好きな人が目の前でそんな恰好されてるだけでも抑えるの大変なのによ…ここでゆっくりしたらもっとモヤモヤするわっ

 

瀬奈:…なっ!?

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0:《自分の体を隠すように両手で覆う》

敦也:………なんだよ…!

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0:《瀬奈が顔を逸らす》

瀬奈:……いや……別に……

 

敦也:あっそ…。風邪ひかないように気をつけろよ

 

瀬奈:そっちこそね。気を付けて帰って

 

敦也:あぁ。

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0:《敦也が部屋を出ていく》

瀬奈:……………バカ…。

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0:《次の日》

0:《間を開ける》

 : 

敦也:…ゲホッ!ゲホッゲホ……!

 

瀬奈:こーら!無理に動くんじゃないの!

 

敦也:いや…だって…

 

瀬奈:いいよ。私が食べさせてあげるから

 

敦也:……ありがとう(恥ずかしそうにボソッと)

 

瀬奈:…あんなに人の心配してた人が…まさか自分で風邪を引くとはね

 

敦也:…それを言うな…。仕方ないだろ…

 

瀬奈:そうねぇ。私に傘さしだしといて、あんなに濡れてたんじゃあそりゃ風邪引きますわ

 

敦也:……!!

 

瀬奈:……私の事……ずっと探しててくれたんでしょ…?

 

敦也:……まぁな…。手あたり次第回ってたから

 

瀬奈:………ありがと

 

敦也:………おう。

 

瀬奈:ほら、口開けて。あーん

 

敦也:…あ…あーん…。

 

瀬奈:………お味はいかが?

 

敦也:………おかゆって……美味しくないな……。