〇三ツ木 桜(みつぎ さくら)
◎秋元 柊太(あきもと しゅうた)
◎君は言った
〇またこの場所に来るからね
◎そう言ったあの日から
君がここに来る事はない…
◎休みの日に
特にやる事も趣味のない僕は
最近よくここに来る
春の時期は満開に桜が咲き
たくさんの木々が
この道を桜色に変える
全く…活き活き(いきいき)として
たくさんの人に囲まれる桜は
僕と真逆すぎて羨ましくなる
〇私ね
桜がたくさん並ぶこの桜道が好きなの
◎見ず知らずの僕に語りかけた
○ここに来ると…
もう少し頑張ろうって思えるんだ…
◎…ずいぶんと単純なんですね
○なっ!?単純!?
◎良いですね…
そんなボジティブ思考が僕にも欲しいです
○なんか…バカにしてる?
◎………………そんな事ないですよ
○何!?さっきの間!!
◎……変な人に会っちゃったなぁ
○ねぇねぇ
私の名前、桜って言うの
三ツ木 桜(みつぎ さくら)
貴方は?
◎え…?
○な!ま!え!
◎秋元…柊太…(あきもと しゅうた)
○へぇー!桜と秋…
どっちも季語だ!
お揃いだね!!
◎いや…全然お揃いじゃないんだけど…
○細かいことは気にしなーい♪
◎……変わった人だった
馬鹿らしく感じるけど
今まで暗く考えてた自分が
知らぬ間に居なくなって…
これじゃあまるで……
○いつもここに来るの?
◎へ?あぁ……まぁ
休みの日は基本来るかな
○そうなんだぁ
私はちょくちょく来たいんだけどね
滅多に外に出れないから…
◎外に出れない?
○うん。でも!
またしゅうくんの休みを狙って来れば
会えるよね!
◎しゅ……しゅうくん!?
○それじゃぁまたね!
◎……何なんだ…あの人は
最後までよく分からない人だ
◎その後、2週間後に彼女は現れた
○しゅうくんごめん
遅くなっちゃったね
◎…桜…さん…
○ヤダなぁ
私はしゅうくんって呼んでるんだから
もっと砕いた呼び方にしてよ
◎砕いた呼び方?
んー…さっくー?
○ぷぷっ…アハハ!
なに?さっくーって(笑)
◎いや…!
砕いた呼び方にって言ったのはそっちじゃん!
○でも…センスが……ぷぷっ!
あはははっ!
◎合わせたのが間違えだった…
○桜でいいよ
呼び捨てのが逆に良いかな
◎……わかったよ
それにしても…
何だか顔色悪そうだけど大丈夫?
○えっ…?
……少し、寝不足…かなぁ?あはは
◎ちゃんと寝た方が良いですよ
まだ寒いし体調崩しやすいから
○そうだね…気をつけるよ
あ、もう時間だ!
また来るね!
◎え?あぁ……。
◎それから彼女が来る度に
徐々に様子が変化していく
体は日に日にやせ細っていき
顔色も会う度良くない
それでも彼女は何気なく笑い
いつもと変わらないように接してくる
その姿が…
見ていられなかった…
○お!今日も老けってるねぇ!
◎……別に老けてない
○そんな反応しないでよぉ
冗談だよジョーダン!
◎……いい加減にしてくれ
○……え?
◎…そうやっていつもいつも…
何事もないように笑って…!
○しゅうくん…?何を言って…
◎見てて分かるんだよ!
次第に弱っていく桜を見てて
分からないわけないじゃないか!!
…何をそんなに隠してるんだよ!
○…………そっか
そう…だよね……ごめん
………私……癌(がん)なんだ
◎……え……?
〇前から治療は受けてたの
でも…癌が進行しすぎてて
もうどうしようもないって言われたんだ…
◎……いつから…
○しゅうくんと会う前から
会う3ヶ月前ぐらいかな…?
◎……本当に助からないのか
○うん……むしろ
今まだ生きていられてるのが不思議だよ
宣告されたのは先月までだから
◎……なんで…
なんで黙ってたんだよ!
○滅多に会えないのに
悲しい気持ちで会うの嫌じゃん
◎そんな事……!
○私にとっては!
大事な事なの…!
◎……っ…!
〇でも!頑張るから!
またここに来るから!
………必ず!!
◎そんなの…分からない…
○私を…信じて…?
◎…なら、病院教えてよ
○ダメ
◎なんで…!
○私がどんな治療を受けてるとか
どんな風に過ごしているかなんて
見て欲しくないの
今だけの私を見て欲しい
◎……なんで……
○…しゅうくんのこと
好きになっちゃったからだよ
◎………!!
○………こんな事…
言うことじゃないよね…
でもね……好きになっちゃったの……
◎……桜……。
○もう時間だ…!
また来るね!
◎待って!
○……へ…?
◎……待ってる…
またここで…待ってるから…!
○……ありがとう…
やっぱりしゅうくんに出会えて
良かったなぁ…えへへ…
じゃあ、またね!
◎そう言ったのを最後に
君はここに来なくなった
それでも今はまだ
ひょっこり顔を出すんじゃないかと
ここに来ている
今年の春も
寒さに負けることなく
綺麗に芽吹いている
やっぱりいつ見ても
綺麗だよ……桜……。