ハナビラのカタチ


 

○泉 獅童(いずみ しどう)

◎華(はな)

 

 

 

◯今日から君の担当になる泉 獅童だ。

 

◎………そう。

 

◯まるで僕に興味を全く示さず

 窓を眺めながらそう返した。

 

 

(間を空け)

 

 

◎いつもと変わり映えのない風景。

 ただひたすら、この病室にいて一日を終える

 ……はぁ…つまらない

 

◯華、もうすぐで移動だ。準備してくれ

 

◎今日は私に何するの

 

◯……そんなことは君が気にすることじゃない

 

◎毎日毎日、私を実験か何かに使われて

 もう散々よ

 

◯終わったら外に出してもいいと言われている。

 それまで我慢してくれ

 

◎………嘘ね。

 もう産まれた時からずっとここに居るよ?

 そんな気、毛頭ないでしょ

 

◯……君の身体は特殊だ。

 外に出てここと違う空気に触れれば

 一瞬にして朽ちてしまう…

 

◎ここで窮屈(きゅうくつ)に一生を迎えるぐらいなら

 その方がいいかもね…。

 

◯…………時間だ。行くぞ

 

◎…ねぇ

 

◯……できない

 

◎ここから連れ出して

 

◯それは出来ないと言っているはずだ

 

◎……もう、痛いのも苦しいのも嫌よ……

 

◯……それでも君が生きていくには

 必要な事なんだ…

 

◎……………そう。

 

 

(間を空け)

 

 

◯「君は見慣れた窓からの風景を眺め、いつも呟く」

 

◎花を見てみたい。

 外には沢山の花に囲まれた場所があると聞いたの

 

◯写真で見た事あるだろう?

 

◎写真なんて所詮平面の世界じゃない…!

 窓から見てるだけと一緒。

 そうじゃなくて、触って、感じて…

 そうゆう本物の花を見たいの

 

◯……本物…か…。

 

◎……貴方は…

 …なんで名前がない私に名前を付けたの?

 

◯名前が無いと呼びにくかった…から

 

◎へぇ…不思議な人

 …………別に私に名前なんてあっても無くても同じじゃない。

 生きてるか死んでるかも分からないんだし

 

◯「本当は違うのかもしれない。

 僕は君の存在が儚く(はかなく)、あまりにも美しいのに

 …自由がない。

 まるで…地面に植え付けられた花のように………なんてな。」

 

◯「そんなことを思いながら、今日も君の管理をする」

 

 

 

 

今日も実験なの?

 

あぁ、今日も朝9時から午後3時を予定している

 

◎いつもそんなことを言って

 予定通りに終わったことなんてないじゃない

 

○それは君がいつも暴れるからだ

 

◎あんなところでじっとしていられるわけがないでしょう

 

○暴れなければ早く終わるのに?

 

◎……あ、そっか…

 私がどんな実験されているのか知らないんだっけ?

 

○そうだ。あくまでも僕は君を…

 

◎あなたは所詮その程度にしか扱われていないのね

 

○……なっ!?

 

◎あなたは私の担当のくせして

 私のこともこの研究所のことも何もわかっていない

 

○……クッ…!

 

◎……いいわ。

 分からないなら分からせてあげる

 

○待て!なぜ急に服を脱ぐ!!

 

◎ちゃんと見なさい

 

○………っ!!…なんだこの傷だらけの体は…!!

 

◎これがあなたの知らない現実よ

 

○そんなっ……!

 

◎私がいつも逃げ出したくなる理由がこれでわかった?

 

○……君は…いつもそんな拷問を何時間も…?

 

◎そうよ。

 毎日毎日何時間も何年間も私は耐え抜いてきた。

 これは一体いつまで続くの?

 後どれほどの痛みに耐え生きていかなければいけないの?

 教えて

 

○僕には……何も言えない…

 

◎意気地なし。もしかして怖くなったの?

 

○そんなんじゃない…!ただ…!!

 

◎ただ?

 

○………もう…時間だ……。用意してくれ…

 

◎そう…もうそんな時間なのね

 

○「自分の知らない所で彼女がずっと…

 つらい悲しみも…痛みも…

 あの細い体で耐えていたのかと思うと何も言えなかった…。

 今まで何も知らなかった僕が

 容易な言葉もかけられない程に

 彼女に刻まれた傷は物々しかった…」

 

 

 

 

◯「彼女のことも自分の気持ちにも

 目を逸らしていた僕が…今日は違った…。

 彼女の全てを知った今、僕の中の何かが崩れ落ちた」

 

 

 

○華。行くよ

 

◎分かってる。今準備を終わらすから待って…

 

○そんなものはどうでもいい…!

 

◎あっ…!ちょっと…!?

 

◯君に見せたいものがある…!!

 

 

(間を空け)

 

 

◎ここから先は行けないわよ

 

◯いいから!

 

◎なっ…!?貴方何を!

 

◯警報が鳴りだした!急げ!

 

◎何処に行く気!?

 

◯君がずっと夢見ていた場所だ!

 

◎…はぁ…はぁ…!もう…走れないって…!

 

○着いたよ…

 

◎…………これは!!

 

◯君と同じように、美しい場所だろ?

 

◎……綺麗…!

 

◯自分じゃ足を踏み出せなかった。

 だから僕が連れてきた

 

◎…でも…なんで私を連れ出す気になったの?

 

○……何でかな?自分でもよく…分からない…

 

◎………そっか…

 

○「初めて見るその景色に、君は見とれているようだった」

 

◎…コレが…私の名前と同じ、はな…。

 本物のハナ…ナノね…

 

◯身体がボロボロになり始めた…

 思ったより…侵食は早いんだな……

 

◎身体はこんな風にナッテモ

 私の中にあるモノはまるでチガウワ…

 

◎日差しが暖かくて

 風が花ノ匂いを連れてクル…全てが違う……

 

◯………ッ…。

 

◯「美しかった君の姿が

 見るに耐えない姿へと変貌(へんぼう)していく。

 それでもここから全く離れようとはしない」

 

◎…最後に呼ンデ……ワタシの名前…

 

○………華

 

◎………ありガ…トウ

 

○「君のためにとしてきた事は

 本当に正しいのか分からない…分からないけど…

 ただ、分かることは」

 

○…華……。

 君は、目の前に広がるどの花達よりも

 …とても……とても綺麗だよ…

 

 

 

    -設定-

泉 獅童(いずみ しどう) 男 24歳

研究員に入って間もない新人

華の担当になったのが初仕事

彼女がどうゆう人間でどんな実験をしているのかは全く

知らされていない

あくまでも彼女の生活管理や状態チェックの役割

 

 

 

華(はな) 女 年齢不詳

生まれた時から病室にいてそこで長年過ごした

何回も研究所から飛び出したがその度に連れ戻され

拷問を受けてきた

なぜ自分が研究対象で自分がどんな人間なのか知らされていない